(写真 左趙瑋選手、右田中選手)
今回はシャンチー(象棋)仲間の田中篤選手に実戦譜の評注を頂きました!
田中選手は「2019上海友好都市招待戦」でN/C・N/V部門で7位に入賞しました。
田中選手とは、上海に滞在中の食事の時間に「ブログ始めました~」と言う話になりました。その流れで、「俺も何か書くよ」とお言葉を頂いたので、では、早速!と言うことで、「2019上海友好都市招待戦」の試合の評注を頂きました!ありがとうございます! そして評注をもらう棋譜もこちらからリクエストしたところ、これまた快くOK頂きました!いや~、リクエストしてみるものですね!(*´▽`*) ありがとうございます!
そして私がリクエストした棋譜は上海チームの趙瑋選手との一局です。
中国のプロ棋士と指す機会は滅多にありませんし、それが試合であたったとなったら・・・。もう絶対これで評注お願いします!と言うことになるわけです。笑(やはり対局相手のレベルが高い試合は見ていて勉強になります。)
では評注をお楽しみください。
○●○●○●
2019年5月22日
紅方 趙瑋
黒方 田中篤
紅方勝ち
シャンチーの大会は、ほとんどが「スイス式トーナメント」で行われます。どういうやり方かというと、最初の対戦が終わったら、次は勝った人同士、負けた人同士の対戦になります。引き分けの人がいたらそれは調整。自分と同じか、なるべく近い成績の相手との対戦を繰り返しながら、全員が同じ回数を戦うのが基本です。(意外に、大相撲の取り組みに近いかもしれません。)参加人数が奇数だとお休みになったりもしちゃうけど。で、この対局ですが、スイス式トーナメントでの3局目です。私は2局終わって1勝1引き分け、「強い相手に当てられるんだろうな」と思いながら、自分が対局する席を探しました。相手の席には「趙瑋」の名が…上海代表、大師です。
「え゛。」
河川敷で野球していたはずが、なぜかマウンドに田中将大とか前田健太がいるような。こっちが投げる立場だったら、打席に大谷翔平が立っているような。そういうことが起きるのがシャンチーの国際大会です。では、内容を見てみましょう。
1.相三進五 炮8平4 2.兵三進一 馬8進7
3.炮二平四 象3進5
すごい人と一対一で話をする機会があったとしたら、「何を話せばいいんだろう」と緊張するのではないでしょうか。そこで相手の方から声をかけられ、少し気持ちが楽になる。最初の一手がまさにこういう状況です。
趙さんの初手は相三進五。「飛相局」という開局で、防御を重視しながらゆっくり指し、細かいリードを積み重ねて確実に勝ちを目指す、という作戦になります。黒はいろいろな対応の仕方(「対飛相有十八応」というくらい)がありますが、私はわりと攻撃的な「炮8平4」を選び、「飛相対左過宮炮」になりました。
「なるほどね」といった感で趙さんは兵三進一。3回合で私は象3進5ですが、ここで普通の手は車9平8。以下、馬二進三、馬2進3、馬八進七、卒3進1、炮八進四のような展開になります。馬8進7は本来「車9平8と寄るために跳ねた」みたいなものなのですが、緊張しすぎて挙動不審になるくらい緊張してたみたいです、私。
4.馬二進三 卒3進1 5.車一進一 車9平8
6.兵七進一 車8進4
私がよくある進行から外れた手を指したので、趙さんも「せっかくだから変化をつけてみよう」と思ったのかもしれません。5回合の車一進一で、ほとんど実戦例のない進行です。次は車一平六かと思いましたが、兵七進一と突き捨てて来ます。私がすぐに卒3進1と取れば、そこで車一平七として、車七進四と取り返して車を好位置に据える狙いです。私もこの兵をすぐには取らずに車8進4として、紅から兵七進一と卒を取ってくれば、車8平3と取り返せるようにしました。
7.車一平七 炮2平3 8.馬八進九 馬2進1
9.車九平八 車1平2
炮2平3で、3路がしばらく膠着します。そこでお互い、動いていなかった馬と車を動かします。 これで、車、炮、馬、お互い、自分の攻め駒全部を動かしたことになります。どんな開局でも、必要とされるのは、自分の攻め駒を、それぞれが力を発揮できる場所に動かすこと。この段階が終わって、この局でも戦いが始まることになります。
10. 炮八平七 車2進9 11. 馬九退八(図1) 卒1進1
12. 馬三進四 馬1進2
趙さんの炮が一つ寄って、膠着していた3路の状況が変わります。車2進9、馬九退八と車交換になったところで、私は少し驚きました。「盤に残っている駒が、対局が始まった時の位置からどれだけ動いているか。」
○私
車2手 炮2枚1手ずつ 馬2枚1手ずつ 象1手 卒1手 …8手
○趙さん
車2手 炮2枚1手ずつ 馬1手 相1手 兵2枚1手ずつ …8手
「あれ?」趙さんが先手、私が後手。私の番の時、趙さんの指し手は私より一手多いはずで、実際の指し手はそうなんですが、見た目は8手ずつ指して私の番、私が先手で指してるようになってます。大師相手に先手を取れた?辺馬を前に進めようと卒1進1ですが、趙さんも馬三進四と攻勢を強めます。ギアが一気に二段階ほど上がった感じです。
13. 車七平六 士4進5 14. 車六進四 車8平4
15. 馬四進六(図2)卒5進1
もう一枚の車も交換になりました。
紅が馬四進六と車を取り返した手が強烈で、まさに「八面威風」といった感があります。ここからさらに馬六進四~馬四進三と進めば「臥槽馬」で、一気に将が危うくなります。次の馬六進四を防ぐのに、卒5進1(単純に馬の脚をしばる)と炮4進1(炮で取れるようにする+馬六進七も防げる)の二つが考えられますが、炮4進1では象の3路への利きを消すことになる。
ということで卒5進1を選びましたが、趙さんが局後に一言
「ここまでは問題なかった。卒5進1がよくなかった」
「では、炮4進1?」
「いいや、平炮。平炮打馬。(炮をよって、馬にあてる)」
どういうことかというと、紅の馬取りに炮3平2と寄るのが正解。臥槽馬狙いに来られても、次に早い手がないのでまだ大丈夫。炮七平八、炮2進5、炮四平八と炮一枚交換になれば、紅の攻撃力も下がるので、まだまだ互角の戦いでした。
16. 馬六進七 馬2退3 17. 兵七進一 馬3退2
あっという間に形勢に差がつきました。
私の炮がいた場所にいる駒が馬に変わったところがミソ。炮なら兵七進一に炮3進5と即座に対応できますが、馬は炮から逃げるよりありません。
18. 炮四平三 炮4平1 19. 炮三進一…
一転、黒7卒に狙いをつけます。こちらもどうにかして兵を取りたいのですが、炮4平1にはじっと炮を上がって守ります。
し、渋い…
19. …卒5進1 20. 兵五進一 炮1進4
(以下評注略)
炮1進4を実現するのと、馬を前に行かせようとで突き捨てましたが、あっさり兵五進一と取られます。七路の兵と中兵の力が大きく、こちらの馬を進めようとしても、兵に邪魔されて難しい状態です。相手にほとんど何もさせない強さを感じさせられた一局でした。この一局の経験が生きたのかどうか、入賞がかかった最終局では、こちらが相手の攻撃を封じ込む指し回しで快勝。それはまた機会があれば、ということで。
(棋譜の続き)
21. 炮四平三 炮1平5 22. 士四進五 卒1進1
23. 炮三進三 馬2進3 24. 炮七進四 卒1平2
25. 馬八進七 炮5平3 26. 兵五進一 象7進9
27. 馬七進五 炮3平9 28. 馬五進四 馬7退8
29. 馬四進五
○おわりに
田中選手、評注ありがとうございます!
趙瑋選手と一局指せたことも良い思い出ですね!(写真も完璧です!)
コメント
こんにちは!
大帥相手の対局ということで、どんな内容になるのか楽しみながら拝見させていただきました。
5回合で敢えて横車にしたところや、惜しげもなく2枚の車を交換したところなどに大帥の懐の深さのようなものを感じました。
棋風もあるかと思いますが、自分の実力に相当自信がないとこういう指し方は難しいですね。
今後も記事更新楽しみにしています!
こんにちは!コメントありがとうございます!(*‘∀‘)確かに本場中国の大師だけあって貫禄のある指し方です。車のない中残局にも自信があるのだなと感じる指し方ですね!よほど中残局に自信がなければこのような指し方は採用できません;;やはり中国の大師さまと言った感じです!これからも是非遊びに来てください!!