可児宏暉選手に華辰昊選手との対局の評注をいただきました!

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(写真は可児選手(左)と華辰昊選手)

以前に上海棋院に訪問した際に名局が生まれたよ~と言うお話しをさせて頂きました。

その名局をついに公表させて頂きます!!

はじめに

上海棋院に可児選手と一緒に訪問させて頂いた時の練習対局がとても素晴らしい一局だったので、今回可児選手に評注の依頼をさせて頂きました。対局相手は上海棋院の期待の星である華辰昊選手です。

彼には輝かしいシャンチー(象棋)経歴が沢山あります。(2014年全国少年シャンチー選手権男子丁組三位、2016年全国少年シャンチー選手権丙組準優勝、2017年全国少年シャンチー選手権乙組準優勝、2018年世界シャンチー青少年オープンU15優勝等々…)

そして今回上海で行われた「2019上海友好都市招待戦」では参加選手の人数が奇数だったため、オープン(順位をつけない選手)で参加をされました。「2019上海友好都市招待戦」の個人優勝は謝靖選手でしたが、彼のとった成績はなんと謝靖選手の次の第二位の成績です。(成績を付けないオープンの参加のため、彼の次の順位の選手が二位になります)そして彼の次の順位の選手は上海チームの特級大師、孫勇征選手です。何と華辰昊選手は孫勇征選手よりも上の順位に入っているのです。(同ポイントで対手分が1ポイント孫勇征選手よりも高かった)また、同じ試合に参加された強豪ベトナム選手に勝利するなど、とにかく驚くほど強い学生選手です。

そんなビックな学生選手に・・・

可児選手が・・・

勝った!!!

横で対局を見ていた私の心の声は・・

「あれ?」

「あれ?」

「良く分からないけど・・(複雑すぎるので)」

「何か可児さんが良い気がする・・」

「あれ?」         「あれ?」

「もしかして・・・」

「勝っちゃうの?」

「なんか・・・勝っている気がする・・・?」

「勝った~!!!」

と言った感じです。

久しぶりに目の前でものすごい試合が繰り広げられたので、とても衝撃的でした。(そして結構長い間興奮が冷めませんでした。うんうん。)

ではみなさん

とても長い前書きでしたが、どうぞ試合をお楽しみください(*´▽`*)

実戦譜評注

2019年5月21日

上海棋院 練習対局

持ち時間 30分+10秒

紅方 可児 宏暉

黒方 華辰昊

結果 紅勝

 1. 炮二平五 馬8進7 2. 馬二進三 車9平8

3. 車一平二 馬2進3 4. 兵七進一 卒7進1

5. 車二進六 炮8平9 6. 車二平三 炮9退1

7. 兵五進一 士4進5

紅の中炮過河車に対し黒が屏風馬から平炮兌車の形を取ったオーソドックスな出だしです。 7回合の時点で紅には馬八進七や炮八平六など他にも有力で実戦例の多い変化がありますが、私はメインで研究していて自信のあった兵五進一を採用しました。 これは急進中兵と呼ばれる指し方で、非常に複雑で激しい戦いになります。

8. 兵五進一 炮9平7 9. 車三平四 卒7進1

10. 馬三進五 卒7進1

9回合黒の卒7進1には素直に取る手も有力で、ソフトに解析させるとこちらの手を推奨してきます。 ただ本譜の馬三進五の方が駒の出が良く実戦例も多いので個人的には好みの指し方です。

ひょっとしたら中国のトップレベルでは既に馬三進五は古い指し方なのかなと心配していましたが、あとで聞いてみると「どちらも有力で好みの問題」というような回答だったので安心しました。

11. 馬五進六 車8進8 12. 馬八進七 象3進5

13. 馬六進七 車1平3 14. 前馬退五 車3平4

ここまで急進中兵の最も多い王道の変化でしたが、14回合黒の車3平4は実戦例が少し少ない変化の手です。  

順番としては、この局面で最も多いのは卒3進1で、2番目に馬7進8が続き、本譜の車3平4は3番目に指されている手になります。  

後で聞いてみると、普段の対局では最も多い卒3進1を採用しているそうです。ですがここまでの私の指し手が速かったことに加え、自分の指し手の幅をさらに広げるという目的もあって、今回は敢えてメイン変化ではない車3平4を採用したとのことでした。

15. 仕四進五 車8進1 16. 炮五平四(図1) 馬7進8

(図1)

15回合のやりとりは黒が車3平4とした場合の代表的な変化ですが、16回合の炮五平四が事前に研究した用意の一手でした。 実戦例はほぼない手ですが、この局面を研究した際にソフトが推奨したため、その意味とその後の変化を考えたことがありました。

炮五平四に対しては本譜の馬7進8が黒の最善ですが、黒には他にもいくつか考えられる指し手があります。 たとえばぱっと思いつくのが相を取る車8平7ですが、本来この相は炮7進8と炮で取り、その後車と炮で紅の底線を攻めるのが強い攻撃手段になります。 なので車8平7と車で相を取ってしまうと、一時的に気分は良いですが、紅が炮四退二と引いておけば黒は7路の炮が攻撃に使えないため攻めに迫力が出ません。 これでは紅の馬得が生きる展開になってしまいます。  

車8平7以外だと、次に考えられるのが馬7進5でしょうか。 兵五進一、炮7進8と進むと、今度は紅の相を念願の炮で取ることができます。 これでも相七進五と上がっておき紅は悪くないようですが、黒の攻めにも迫力があってなかなか大変です。 そのため馬7進5の場合には馬を取り返さずじっと相七進五と上がるのが好手で、少し指しづらいですが紅は元々馬得だったので馬を取り返されても駒の損得はゼロに戻っただけで不利にはなっていません。 今度は黒が取られそうな馬を逃がさないといけないですが、馬5退3と引くしかないのがつらいところ。 次に紅が炮八平九くらいで車の活用を見せれば、紅陣は相が連携して安全になりましたし、全体的な駒の働きの差で紅が優勢の展開になります。

17. 炮四退二 車8退4  

馬7進8の車取りに対し車をよけず炮四退二とするのが好手で、直前に炮五平四とした手を生かした手順です。 馬8退6と車を取り合うと、黒の攻めに迫力が出ないので紅の馬得が生き、はっきり紅優勢です。

車8平7や馬7進5だと、先に書いたような理由でいずれも紅優勢になります。 相手はじっくり考えて車8退4としましたが、実はこれがこの局面の最善手です。 敵ながらさすがだなと感じましたし、私自身以前研究した記憶がこのあたりから曖昧になってきたので、これ以降は頭を整理しながら慎重に指し進めました。

18. 車四平三 馬8退7

対局の3日後くらいに、この対局を知って自分で棋譜を並べて検討してくださった審判員の資格を持つ強い方に、「黒が馬8退7ではなく馬8進6なら紅はどうする?」と聞かれました。

対局中にはさすがに無理筋だろうと思い深く読んでいなかったので、その時は「車三進二で黒が一時的に2枚の駒損になってしまうし、ソフトの候補手に挙がっていた記憶もないからきっと良くない」と曖昧な回答をしたところ、「これは一度ちゃんと考えた方が良い」と言われました。 確かにその通りで、もし実戦で車三進二に馬6進4とされたら、紅もかなり時間を使って悩みそうな局面です。

その後自分で検討した結果、この局面になったときの最善は車九進一でした。 黒が馬4進2と炮を取れば車三退五と卒を払って自陣に引き、馬2退3、車九平八くらいの順ではっきり駒得が生きるので紅優勢。

また炮を取らず車8平3と来るのがなかなか強烈で受けづらそうですが、これには思い切って馬七進五と跳ねるのが好手で、馬4進3には馬五退六と引き、車4進8には炮四進一と当て返すのが上手い受けの手順でこれも紅優勢です。

結果的には直感通り無理筋でしたが、対局中にここまで読み切れた自信はないですし、審判員の方の指摘は自分の読みの浅さを痛感させられる出来事でした。

19. 車三平四 車8平3 20. 炮八平九(図) 車3進2

(図2)

20回合の炮八平九は馬を見捨てた思い切った手です。

もちろん馬を助ける手を第一に色々考えましたが、どう動かしてもなかなか紅が指しやすくなる良い展開を思い描けませんでした。 どうしようかと困っていたときに、ふと事前の研究段階で頭の片隅に記憶していたこの手が思い浮かび、長考の末決断しました。

この手は後で色々な人に「ありえるけど・・・」というような微妙な反応をされた一手でしたが、ソフトに解析させてもこの炮八平九を推奨していたので、悩んだ末の好判断でした。(上海の謝靖選手もこの手で良いと言っていました!)

21. 車九平八 馬7進8

紅の車九平八は当然の手ですが、これに対し黒がどう対応するのが最善なのかが自分でも分からなかったので、興味を持って相手の指し手を待っていました。 ぱっと見は炮2退1くらいが自然ですが、紅には炮四進九という強烈な手があるので大変です。

相手は馬7進8と強く攻め合ってきました。

22. 車四退一 炮7進8  23. 炮四進九(図3) 士5退6

(図3)

お互い炮を飛ばし合ってさらに激しい戦いになりましたが、23回合黒の士5退6が自然に見えて実は良くない敗着でした。 ここでは車4進2と車を上げて炮にヒモをつけるのが好手で、以下車四平二、将5平6のように進み、依然紅ペースですがまだまだ難しい戦いが続きます。

こうなると地力の差があるため紅ペースでもあまり自信がなかったですが、実戦では相手もかなり時間が切迫していたためわりとすぐに士5退6としました。

24. 車八進七 車3平8  25. 車四進三 象5退3

26. 炮九平五

最後は少し時間が残っていたのでしっかり読み切ってから指し、炮九平五を見て黒の投了となりました。

おわりに

【総評】

この対局は自分が日頃から研究していて自信があった急進中兵がどこまで通用するのかを試す良い機会になりました。 実戦では16回合の炮五平四を機に相手が一手一手時間を使ってじっくり考えてくれたため、その間に自分も複雑な局面をなんとか頭の中で整理しながら指すことができました。

後で振り返って検討しても、紅は最後まで最善手かそれにかなり近い手を指し続けられたのではないかと思っています。 苦手な残局勝負にもならず展開としても理想的で形でしたし、私がシャンチーを初めてから今までで一番の会心譜でした。 もちろん勝つことが出来たことはまぐれですし、公式戦でもありませんが、この経験を自分の自信にして今後もシャンチーの勉強に励みたいと思います。

○おわりに

可児さん、試合の評注を頂き、ありがとうございます。

私はいったい何度この試合を並べたのか・・・と言うぐらい何度も棋譜を並べました。本当に素晴らしい一局です!(評注もとても丁寧な説明でより理解が深まりました!!)次の評注を頂けるのも楽しみにしています!(*’▽’)

今回は本当にありがとうございました★

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