今回は日本リーグの棋譜を紹介させて頂きます!
今回は日本リーグ優勝の可児さんから頂いた評注入りの棋譜をご紹介させて頂きます!
みなさん、お楽しみ下さい(*´▽`*)
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(酒井さんの棋譜を紹介しています!)
棋譜紹介
日本リーグ第5ラウンド
持ち時間45分+30秒
今回紹介するのは2022年日本リーグの最終局第5ラウンドです。
ここまで私は2勝2和、山崎さんは3勝1敗でともに6ポイントの首位に並んでいたので、この対局は事実上の優勝決定戦でした。大会の規定により同ポイントの場合は勝ち数が多い方が上の順位となるため、私が優勝するには勝つしかなく、山崎さんは和でも優勝という状況です。
この対局はお互いにミスや失着があり内容のレベルにはそれほど自信がありませんが、大一番の緊張感の中で生じたものとして温かい目で見ていただければ幸いです。
紅方:可児宏暉
黒方:山崎秀夫
結果:紅勝ち
1. 炮二平五 炮8平5 2. 馬二進三 馬8進7
3. 車一平二 車9進1 4. 兵三進一 車9平4
5. 馬八進七 馬2進3 6. 兵七進一 車1進1
私の中炮に対し山崎さんがこの対局で採用したのが順手炮でした。この布局は真っ向勝負な激しい展開になりやすいので、通常和でも良い有利な状況の黒はあまり使わない形です。ただ「和でいいや」という消極的な気持ちでは積極的に勝とうとする相手に和にするのは難しいと以前本で読んだことがありますし、順手炮は山崎さんが昔から指している得意な布局です。この状況でもしっかり勝ちにきてるんだなと思い、こちらとしては身が引き締まる思いになりました。
7. 馬三進四 車4進7 8. 炮八進二 卒3進1
9. 兵七進一 車1平6
7回合黒は車4平6とする手もありますが、本譜の車4進7のほうがより積極的です。その後卒3進1と突き捨ててから車1平6と回る本譜が布局通りの進行ですが、卒3進1を入れずいきなり車1平6とする手もなくはなく、紅は少し注意が必要です。普通に考えると炮五平四が良い手に見えますが、これには炮5平6という返し技があります。これですぐに紅が悪くなる訳ではないですが、紅の利は消えあまり面白くない展開です。2~3年ほど前に山崎さんと練習対局をした際この進行になって負けたことがあり、印象に残っています。
10. 馬四進三 車6進2 11. 兵三進一 卒5進1(図1)
10回合黒は車6進3という手もあり、私としてはこちらの方が研究したことがあり自信のある進行でした。車6進2はあまり実戦で指されたことがなく、11回合黒の卒5進1までしか変化を知りませんでした。
12. 仕四進五 馬3進5
私にとっては12回合からが未知の局面で、これ以降時間を多く使いながら慎重に指し進める形になりました。ソフトで解析すると仕四進五はまあまあの手でしたが、ここでは実戦例も多い車九進一が最も良い指し方だったようです。
13. 兵七進一 卒5進1 14. 兵五進一 炮5進3
15. 車二進三 炮2平5
15回合車二進三もまずまずの手でしたが、ここでは兵七進一が最善手でした。もし炮2退1ならさらに兵七進一、炮2進1と進み自然に兵が敵陣に入れますし、車4退4なら炮八進二、車6退1、車二進四のような進行で紅優勢です。
16. 車九平八 車4退1 17. 炮八平七 象3進1
18. 車八進二 士6進5 19. 炮七退一 前炮進1
20. 車二平四 車6進3
18回合黒の士6進5は次に将5平6の殺を狙っている危険な手です。一瞬ちゃんとした受けがないかと思いヒヤッとしたのですが、炮七退一を発見出来てほっとしました。そのあと黒の前炮進1は車二平四と車をぶつける手が生じることを見落とした悪手で、これにより紅陣の危険度が大きく下がりました。なお本当はすぐに車二平四とぶつけるのではなく、何か一手有効な手を指したあと将5平6のタイミングで車二平四とするのが最も効率の良い受け方です。ただその有効な手が見当たらなかったので、仕方なくすぐに車二平四とぶつけることにしました。
21. 炮七平四 馬5進7 22. 炮四退一 前炮平3
一時の危険は去りましたが、黒の馬5進7が味の良い手で紅は全く楽観できません。ここでは色々考えたものの炮四退一しかまともそうな手が思いつきませんでした。ただ実は紅にとってここはチャンスで、馬三進五、象7進5、帥五平四、車4退5、兵七進一、車4平3、馬七進五、馬7進6、馬五進六、車3平4、馬六進四のように進むとはっきり紅優勢でした。対局中帥五平四から反撃するという発想が浮かばなかったのは、大きな反省点です。
23. 相七進九 車4退1 24. 馬三退五(図2) 炮5進5
25. 相三進五 車4平9
24回合紅の馬三退五は指したあと読み落としに気づき焦りました。この手の狙いはもし車4平9などと車が逃げた際に、馬五進六、将5平6、車八進三のような形で一気に攻めることです。ただ車4平7と逃げた場合には、同じ進行で車八進三とした際に車7進3で紅が将死になってしまいます。よって車4平7と指された場合は炮五進五、象7進5、相三進一のように指すしかなく、黒ペースの展開です。実戦では黒から炮5進5と炮交換をしてくれたため、この読み落としが影響しない展開になり助かりました。
26. 馬五退三 車9平6 27. 車八進五 后馬進5
28. 車八平九 馬5進4 29. 車九平三 象7進9
27回合紅の車八進五は待望の反撃ではありますが、相手の攻めを呼び込むことにもなるので悩みました。ただ他に良い手が思いつかず、また勝たないといけないという状況でもあったので思い切って踏み込みました。
30. 相九進七 馬7進5 31. 炮四平二 車6平8
32. 馬七進五 炮3退3
31回合黒の車6平8は単に炮二進二を防いだだけでなく、馬4進3、炮二平七、車8進3、相五退三(仕五退四だと馬5進4~車8退1で将死)、車8平7のような攻めを狙っており危険です。そのため馬七進五と逃げましたが、炮3退3と味良く兵を取られてしまいました。ここでは馬七進五ではなく車三平五とするのが最善だったようですが、時間がほとんどなくじっくり考えることが出来ませんでした。
33. 車三平一 炮3平5 34. 車一平五 車8平7
35. 炮二平四 馬5退7 36. 車五平三 馬4進6(図3)
37. 車三進二 士5退6 38. 車三平四 将5進1
39. 車四退一 将5退1 40. 車四進一 将5進1
41. 車四退一 将5退1 42. 車四進一 将5進1
36回合黒の馬4進6は車三進二を読み落とした雑な手だったと思います。士を1枚削れたのは紅が勝ちを目指す上で非常に大きかったですし、その後ジャンを繰り返して時間を稼ぐことができたのも一旦冷静になる上で非常に大きかったです。
43. 帥五平四 車7退1 44. 車四退六 車7平5
43回合帥五平四は冷静な一手が指せたと思います。帥が中央から移動したことで中央の馬が移動できるようになり、黒はなにかしら行動を起こさないといけない忙しい局面になりました。実戦のように馬を取り合う進行になると、黒の士象が3枚欠けているのが大きく、紅優勢です。
45. 車四平三 炮5進3 46. 車三進二 炮5平6
47. 帥四平五 車5進1 48. 相五退七 炮6退4
もう1枚の馬も取り合って局面が一気に簡略化されました。ここでは正しく残局を指せば勝てると思い指していました。48回合相五退七は分かりやすいチャンスを逃した手で、ここでは車三退二で黒の炮と車を牽制し、炮四平二から炮を取りに行くのが分かりやすい勝ち方でした。
49. 車三進三 将5退1 50. 車三進一 将5進1
51. 車三退一 将5退1 52. 車三進一 将5進1
53. 車三平六 炮6平5 54. 兵九進一 車5平4
55. 炮四平五(図4) 車4平5 56. 車六退三 炮5進5
54回合の局面は非常に悩みました。落ち着いて指すなら相七退五ですが、車5平1と兵を取られます。実用残局の知識として車炮士相全対車炮が必勝なのは知っていましたが、今まで実戦でこの残局を指したことはなかったですし、また今回黒は単純な車炮ではなく卒も1枚河を渡れそうです。そのためこの残局になってちゃんと勝てるのか正直自信がありませんでした。
そこで考えたのが兵九進一で、色々な変化を読む時間がなく祈りながら指した一手でした。ただ実はこれはビックリするくらいの大悪手でした。まず分かりやすいのが車5平6で、以下帥五平四、炮5平6と進み、紅は炮が取られてしまいます。これだと良くて引き分け多分負けといった展開です。また実戦の車5平4の場合はもっと強烈で、炮四平五に炮5平3が切り返しの妙手となり、紅は車が取られてしまいます。これははっきり負けです。
実戦の進行は私が兵九進一を指した際に「こう進んだら勝てる(他は分からないけど)」と思っていた通りの進行で、あとから振り返るとなぜ実戦がこのように進んだのか本当に不思議です。
57. 相七進五 車5退2 58. 車六平九 卒9進1
黒には士象がなく、紅の兵が一枚河を渡れることが確定したため、紅の必勝残局となりました。
59. 兵九進一 卒9進1 60. 車九進二 将5退1
61. 兵九進一 車5退1 62. 兵九進一 車5退1
63. 車九進一 将5進1 64. 兵九進一
64回合黒は車5平1としても車九平二され、車1退1と兵を取れません(取ると車二退一から車を取られる)。まだ実際に勝つには少し手数がかかりますが、ここで黒が認輸し紅の勝ちとなりました。
最後に
この対局を勝ち3勝2和の成績で日本リーグを優勝することができました。好メンバーが揃ったこの大会で一度も負けず優勝できたのは自分でも意外でしたし、今後の自信にもなりました。ただ細かく見ていくと、この一局のようになぜ勝てたのか不思議な対局もあり、まだまだ実力不足だなと感じることが多かったです。今後もっと優勝回数を増やしていけるよう頑張っていきたいと思います。
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