シャンチー(象棋)アジア選手権の棋譜を紹介します!
今回は可児宏暉選手に頂いた自戦評注入り棋譜を紹介させて頂きます!
皆さん、棋譜観賞をお楽しみ下さい(∩´∀`)∩
そして可児さん、ありがとうございます^^
ちなみに今年の1月に開催されたシャンチー日本リーグ(去年の大会優勝者等が招待される大会)では可児さんが優勝されました!(おめでとうございます^^)今年は世界選手権のある年なので、そこでも活躍を期待しています!!(全力で応援!!)

棋譜紹介
2024年アジア選手権第4R
持ち時間:45分+20秒
紅方:可児宏暉
黒方:沈毅豪(マレーシア)
結果:黒勝ち
今回紹介するのは2024年12月にシンガポールで行われたアジア選手権の第4R沈毅豪さんとの1局です。
沈毅豪さんは有名なマレーシアのトッププレイヤーで、国際特級大師(グランドマスター)の資格を持つ強豪です。この大会で私が当たった相手の中では最も強い相手で、勝負の面では大変ですが対戦出来て光栄だなという思いでした。沈毅豪さんとの対局はこれが2回目で、2020年に行われた「マレーシア日本インターネット交流大会」で1度対戦しています。その時は中局で沈さんに大きなうっかりがあり私が勝ったのですが、明らかに実力を発揮できていなかったので、実質的にはこれが初めての対局です。
第4Rのこの対局を迎えた時点でお互い3ポイント(1勝1敗1和)のイーブン、大会後半に向けて重要な1局となりました。
1. 炮二平五 馬2進3 2. 馬二進三 炮8平6
3. 車一平二 馬8進7 4. 兵七進一 車9進1
紅の中炮に対し、黒は反宮馬で対抗します。4回合で黒は卒7進1と指すのが最も自然で多い指し方ですが、車9進1も車を使う自然な発想で有力な変化です。
5. 兵三進一 車9平4 6. 炮五平四 車4進3(図1)

6回合炮五平四は知らないと指しづらい手損の一手ですが、バランス重視の指し方でここでは最も多い手です。紅は馬の進路を確保しているので馬八進七と跳ねたいのですが、すぐに跳ねると炮6進5と串刺しにされて駒損してしまいます。よって一手手損をしても先に炮五平四としておくことで馬八進七と跳ねることが可能になり、2枚の馬が使いやすい好形を作ることができます。なおここでは炮五平四の他に炮八平七とする手も有力です。
紅の炮五平四に対し、黒は車4進3と上がって塞がっている2枚の馬の進路をこじ開けることを目指しました。これも実戦例の多い自然な一手です。ここでは他に炮2平1としてまだ使えていない右車を使おうという手もあります。この変化は2019年に台湾で行われた国際大会でフィリピンの国際特級大師である荘宏明さんに指されたことがあります。この対局は和になったのですが、シャンチーメイツでも以前少し紹介しているので、興味のある方はそちらもご覧ください。
7. 馬八進七 卒3進1 8. 馬三進四 車4平5
9. 馬四退六 車5平4 10. 馬六進七 炮2退1
8回合で紅は兵七進一と普通に卒を取ってもいいですが、車4平3、相七進五、卒7進1のように進むと黒も2枚の馬が使えるようになり、形勢は互角なものの紅としてはあまり面白みがありません。そこで馬三進四から卒を取りに行く積極的な指し方を選びました。
11. 車二進六 象3進5 12. 車二平三 馬7退9
紅は卒を取って馬を引かせて好調なように見えますが、七路の卒を取った馬がかなり不安定で取られかねない状況なので楽観はできません。なお難しくなるのでここでは掘り下げませんが、12回合はより自然に見える馬7退8(次に馬8進9として馬を安定させる狙い)だと少し紅が良くなるので、本譜の馬7退9が正解です。
13. 車三平一(図2) 炮2平7

ここまでお互い研究範囲内といった感じであまり時間を使わず指していましたが、すぐに指された炮2平7がデータベースに実戦例がなく私が知らなかった手でした。あとでソフトで調べてみるとかなり有力な手とのことで、相手の研究の深さを感じさせられました。
なおここでは士4進5と上がって馬に根をつける手に対し前馬進八という妙手(間接的に車取りになっているため、馬の根を無効化する)で有利を築き勝った中国の蒋川特級大師の対局があります。対局中ひょっとしたらこの進行になるかなと思っていたのですが、相手はその対局を知った上で黒の指し方を改良したのだと感じました。
14. 炮四平三 炮6平7
炮四平三からの本譜も問題の無い対応でしたが、局後指摘された普通に相七進五とする変化のほうが面白みがありました。相七進五、馬9進7の時に困ってると思い深く考えませんでしたが、ここで車一進三と逃げるのが少し盲点になりやすい好手。もし黒が象5進3と馬を取ると、車一平三が炮取りと士を削る手の2つを狙った好手で黒は受けきれず紅優勢です。よって黒はそう簡単には馬を取れず、複雑で難しい中局が続きます。
15. 車一進二 前炮進5 16. 前馬進八 車1進2
17. 炮八平三 炮7進6 18. 車九平八 士4進5
16回合のこのタイミング前馬進八を入れるのは重要です。先に炮を取ったあとでこれをすると前馬進八の時に車1平2とされ、本譜より黒は車が使いやすく紅の馬の負担感も大きいです。
19. 車一平四 車4進3 20. 馬七退九 車4退1
21. 兵七進一 車4平5 22. 相七進五 車5平3
局後22回合では紅は士四進五と上がるべきとの指摘を受けました。車四退六の余地がある分こちらのほうがよいとのことで、言われてみると確かにそうです。相七進五は馬九退七と引けるようにした手で悪くはないですが、細かいところで少し損をしてしまいました。
23. 車四退三 炮7退1 24. 兵七平六 車3平1
24回合兵七平六は緩手でした。この手は炮7平5~炮5退2とされた時に兵が孤立して取られてしまうのでそれを防いだ手ですが、仮に別の手を指してそう進んでしまっても兵七平六、馬3進4に馬八進六が妙手(車八進九からの殺を見せ、それを防いだら馬六退五と卒を取る)があるので大丈夫でした。
25. 兵六進一 炮7平5 26. 仕四進五 前車進2
27. 車四平七 馬3退4 28. 車七退二 炮5退2
29. 兵六平五 前車平4(図3)

25回合では普通に馬を逃がしておいてもいい勝負だと思ってましたが、なんとなく少し面白くない気がしていました。そこで本譜の馬を見捨てる順が思いついたので、上手くいくか自信はなかったですが思い切って採用することにしました。ソフトの解析では少し黒有利に振れましたが大きな差ではなかったので、主導権を握れることを考えるとまずまず悪くない選択だったかなと思います。
30. 兵五平六 炮5平6 31. 兵六平七 炮6退3
30回合では馬八退六、車1平4、車八進五、炮5平4、兵一進一のような進行が最善で正しい黒の押さえ込み方でした。実戦の兵五平六はとにかく黒右辺の車と馬を絶対に閉じ込めようという意図でしたが、もともといた中路の位置も悪くなかっただけに2手かけるだけの十分な価値があったか微妙でした。
32. 車七平四 炮6平8 33. 車四進三 炮8進8
34. 仕五退四 車4退4(図4)
33回合黒の炮8進8を軽視していました。当初相三進一で何の問題もないと思っていましたが、よく見ると車四平五から炮8平2と車交換をされてしまい黒優勢です。仕方なく士が下がりましたが、これでは少し紅陣に嫌味がついた格好です。こうなるのであれば車四平二と炮の侵入を防いでおくべきでした。
35. 馬八退六(図4) 車1平4 36. 馬六退四 象5退3
37. 馬四進二 馬4進5 38. 仕六進五 前車平8

35回合では攻めるか一旦士六進五と整えるか迷ったのですが、馬八退六から攻めに出ました。ただこれが敗着でもっと紅は落ち着いてゆっくり指すべきでした。
この攻めが成立していない理由は黒が象5退3が馬4進5という形で卧槽馬を防ぐことができるからです。対局中はこの受けがあることが完全に頭から抜け落ちて見えていませんでした。せいぜい受けるなら炮8退7くらいで、その時には兵三進一から兵を進めていけば攻めが厳しいのではとの読みをしていました。
せめて先に士が上がっていれば38回合で車八進九として嫌味をつけれたのですが本譜ではそれもできず、せっかく封印していた黒右辺の車と馬を解き放ってしまったので、これでは作戦大失敗です。
39. 兵七平六 車4平3 40. 兵六平五 車3進1
もし40回合黒が炮8退6と馬を取ると、兵五進一、象7進5、車四平九と進みます。この局面は黒が炮1枚多いですが、紅の士相が欠けていないので和模様です。なぜ和模様かというと、ここから紅は玉砕覚悟で車炮交換を目指します(車交換でもいいです)。すると交換した形が車士相全対双車になり、基本的には和の実用残局に落とし込むことができるからです。
黒の沈さんも当然このことは分かっているので、馬を取らず車3進1とします。これは勝ちを逃さない落ち着いた好手です。
41. 兵五平六 車3進5 42. 兵六平五 車8進4
紅は再度中央の馬に働きかけて和を狙いますが、黒はもう相手をしてくれません。
紅陣の急所をついて殺をかけてきます。
43. 仕五退六 車3退1 44. 相五進七 車3退2
45. 仕六進五 車3進3 46. 仕五退六 車8退1
47. 仕六進五 車8平5(図5)

44回合の相五進七は時間に追われて指した意味のない手ですが、ここでは変わる手もなくすでに敗勢です。紅陣の相が欠けたので今度は馬を取っても大丈夫ですが、そんなことには目もくれず一直線で追い込みをかけられました。最後は受けるなら車四退五くらいですが、車5退4とされたら見込みがないためここで投了しました。
【最後に】
相手の深い研究にもなんとか対応し、駒捨て以降も良い勝負ができていたのですが、単純な受けの手の見落としから一気に敗勢にしてしまったのが非常に悔いが残り残念でした。
大会を通しての結果は2勝2敗3和のイーブン。全体的に内容は悪くなかったのですが、勝てそうで勝てないという対局がいくつかあり、細かいところの精度をもっと上げていかないと上位に入れないなということを感じた大会でした。
おまけ
皆さん、可児さんの詳説入りの棋譜は如何でしたか?^^
とても勉強になる記事で私は楽しく読ませて頂きました!
(世界のレベルを知ることの出来る一局ですね!)
是非可児さんの解説記事のバックナンバーもご覧ください!
可児さんの評注入り記事は全てとても勉強になるのでオススメです(*´▽`*)
(バックナンバー↓)
こちらでは2024年アジア選手権の棋譜紹介をしています!
お時間のある方はこちらも是非ご覧ください^^
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