シャンチー「鉄滑車」と呼ばれる開局について【その1】

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今回は「鉄滑車」という開局をテーマにした記事です。

「鉄滑車」とは紅が初手に「車九進一」と指す開局です。

一般的には、「ただで馬を損するじゃん!」と思われているので、日本の皆さんは(他の国の人もですが…)あまり指さない開局です。

ただ、この開局は中国のアマチュアの試合ではたまに使われます。

そこで実際に研究してみたところ、異常に大きな損をする開局ではないとわかりました。(大体2先譲と同じぐらいの損でしょうか…。←大きいですけどね。笑)

少し見てみると、実は興味深い開局だったので、研究を進め、記事にしてみることにしました。 この記事シリーズは6回に分けて紹介する予定です。

皆さま、どうぞ更新をお楽しみに!

(記事:原案執筆、楊帆)

「鉄滑車」とは

「鉄滑車」とは伝説的な中国の古代兵器です。

漢の韓信が発明したもので、項羽との闘いで大活躍したと言う伝説があります。

「鉄滑車」は500キロ以上の重さで、車身は鉄製で、二輪に刺があります。速さがあり、衝撃力が抜群だったと言います。

また、小説の「説岳全伝」にも登場したことがあります。

○そのシーンのエピソードです。

宋の高宗が牛頭山で金兵に囲まれたシーンです。そこに岳飛軍が助けに行きました。岳飛の配下の第一猛将であった高寵が単騎で金兵の兵営に入り、数えられないほどの金兵を殺しました。しかしたった一人の敵である高寵を止めることの出来る人がいませんでした。高寵の無敵な姿を(凄まじい強さを)目にした金の将軍は「鉄滑車」の出動を命じました。しかし高寵は恐れずに槍で「鉄滑車」をひっくり返しました。そのまま連続で11台もの「鉄滑車」をひっくり返して行きました。しかし12台目が来た時、ついに高寵の馬が力尽きて倒れ、高寵が地面に落ちました。そして「鉄滑車」に転圧されて、高寵は戦死しました。


「南宋の第一槍」と呼ばれる名将高寵を制す鉄滑車!その名を付けられた開局とは、一体どれほどの威力のある開局なのか見て行きたいと思います。

「鉄滑車」開局のメリット

まず、はじめに初手から馬を捨てる開局にどのようなメリットがあるのか考えてみます。

○メリットの例

1.相手をイライラさせることが出来る。

「自分のことをばかにしているのか?」と相手の心を動揺させる、あるいは「この一局絶対に勝ってやろう」と思わせることで、中局時に相手が若干無理のある手や冷静でない手を指す可能性が高まります。

2.時間を稼ぐことが出来る。

特に持ち時間が短い試合(快速戦など)で、初手から馬を捨てる手を指すと、準備した開局であることが予想されるため、開局から相手は慎重に考えながらさすため時間を使う可能性が高くあります。そのように進むと、中局段階に入った時に時間的に有利になります。

3.自分の棋力に自信があることを示すことで、相手に自信を無くさせることが出来る。

初手で馬を捨てるのは自分の棋力への自信が溢れる手です。「私は強い!」と相手にアピールするのと同時に、相手の持っている棋力への自信に「向こうの方が、棋力が高いのか…」と言った心理的な影響を与えることで、中局の段階で、相手から弱気な軟手が出やすくなります。

以上が、「鉄滑車」開局のメリットです。

相手に精神的な影響を与えることと、時間的な有利を得ることで中局の段階に入った際に自分のペースで指すと言ったイメージの開局です。(実際のところ快速戦などでは時間の有利は中局で大きなメリットになります)

この開局では多く指される開局を外し、お互いに(とくに相手にとって)指し慣れていないかたちの開局を使う中で、最終的には中局の力を頼りする対局になります(自分も多少の損ををしますが、その損を時間や局面理解度などで埋め、結果的に中局の実力で勝負をして行こうと言った開局です)。また、開局の段階でも幾つのパータンや罠がありますので、それは勉強しなければなりません。

局例1

では、早速局例を見て行きます。

1. 車九進一 炮2進7

「鉄滑車」の開局です。黒は遠慮することなく紅の馬を取りました。

2. 炮八平五 馬2進3

この1回合は普通の流れです。

3. 車九平八 車1平2 4. 車八進八 馬3退2

第3回合で黒が「炮2平1」と炮が逃げる手は一般的な発想です。この変化については次回以降に詳しく紹介します。今回はまず車交換の変化を見ていきます。

5. 炮五進四 馬2進3 6. 炮五退一 卒3進1

紅は1つ馬の代償で「空頭炮」の局面を作ることが出来ました。ここからはどのようにして「空頭炮」の威力を発揮するのかが、この1局のポイントになります。

7. 炮二進二 将5進1 8. 車一進二 炮2退5  

9. 炮二平五 将5平4 10. 車一平六 炮8平4  

第9回合で黒がもし「将5平6」と指すと、前炮平八馬3進2車一平二炮8進7(車9進2炮五平一車得)車二進六将6進1炮五平一、と進み紅は車得で優勢です。  

11. 車六平八 卒3進1 12. 兵七進一 炮4平5

13. 車八平六 炮5平4 14. 馬二進三 車9進2

15. 車六進四

次に紅には「後炮平六」の展開があります。紅はコマを取り戻して、攻撃の勢いがあり優勢です。


今回は「鉄滑車」と言う開局の説明と、1つ目の局例を紹介しました。

「鉄滑車」は普段指されることのあまりない開局ですが、今回の記事でこの開局に対して興味を持って頂ければいいな、と思います。

また次回の記事もお楽しみに!(*´▽`*)

おわり

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